Free-to-Own(F2O)とは?話題のNFTゲーム「DigiDaigaku」による新しいコミュニティの形
Move-to-Earn、Play-to-Earnに続く注目のキーワードFree-to-Own(F2O)のご紹介
💡2月2日更新の新着のEpisodeはこちら。以下2つのテーマで語っています。
NFT版ShopifyであるManifoldの可能性/DAOのソーシャルエンジニアリング問題について
そして今回のSubstack記事のpodcastでのEpisodeはこちらからどうぞ!タカジCPさん、今回も濃密な書き起こしをありがとうございます🙇🏻♂️
Free-to-Own(F2O)は、その名のとおり「無料で所有できる」がコンセプトです。
今までの一般的なクリプトのゲーム・プロジェクトはユーザーが最初にNFTを購入して参加資格を得ていました。しかし、F2Oは最初に無料NFTが配布されるので、参加は無料でできます。
そのF2Oというシステムを組み入れてスタートしたプロジェクトはDigiDaigaku(デジダイガク)といいます。
ゲーム業界はFree-to-PlayからFree-to-Ownモデルに進化しようとしています。今回は、そのF2Oのチャレンジについてまとめます。
F2Oに至るまでのゲーム開発の歴史
F2Oへの進化は、数十年にわたるゲームの開発者からプレイヤーへのパワーシフトの中で自然な流れともいえるでしょう。最初のビデオゲームとしてアーケードゲームが登場しました。これは1プレイごとにお金を支払って遊んでいました。
次は家庭用ゲーム機です。ゲームをするためにやや高額な支払い(例:60ドル)をしてゲームを購入していました。家庭用ゲームは一度買えば何度でもプレイできます。
その後に登場した初期のモバイルゲームは、家庭用ゲームのモデルを踏まえつつ、価格はかなり抑えられました(例:1ドル)。とはいえ、有料は有料です。昔のAppStoreのアプリは100円とか有料なのが多かったですよね。
そして、現在のモバイルゲームはF2P(Free-to-Play)に変化しています。
プレイヤーはまず無料でゲームを楽しみます。そして、さらにサービスや機能を受けるために課金します。開発者は、時間をかけてゲーム内資産を購入してもらい、利益を得るフリーミアムというビジネスモデルを採用するようになりました。
F2Oは、さらに一歩進めます。
F2O開発者は、販売していたはずの資産の一部もプレイヤーに渡します。プレイヤーは開発者とともにゲーム内資産を共同所有することで、ともにプロジェクトの発展を目指そうとするでしょう。
F2Pは「フリーミアム」、F2Oは「無料以下」です。
F2Oが掲げるこの新しいゲーム・コミュニティの形は今後ゲーム業界そのものを変えるかもしれません。
ゲーム界の玉座に座る男が手掛けるプロジェクト、DigiDaigaku(デジダイガク)とは
コレクション名:DigiDaigaku(デジダイガク)
総発行枚数:2,022枚(Genesis)
エアドロップコレクション:DD Spirits/DD Heros/Castaways/DD Villains
開発・運営主体:Limit Break社
ブロックチェーン:ERC-721
コントラクトアドレス:0xd1258db6ac08eb0e625b75b371c023da478e94a9
フロアプライス:13.1ETH(約230万円)
総取引量 9,662ETH(2023.1.13時点)
2022年8月29日にベンチャーキャピタルから2億ドル(300億円)の資金調達を行ったゲームスタートアップのLimit Break社。
このプロジェクトは、「デジダイガク」と呼ばれるフリーミントのNFTコレクションを立ち上げました。最初は静かなスタートでしたが、資金調達のニュースと共に一気に人気に火が付きました。
この投資ラウンドに参加したプレイヤーは、暗号資産特化ファンドで著名なParadigm、同じく暗号資産関連ファンドのStandard Crypto、暗号資産取引所であるCoinbaseやFTXなど業界のトッププレイヤーたちです。
Limit Breakはガブリエル・レイドン(Gabriel Leydon、別名「ゲーム界の玉座に座る男」)とハルバート・ナカガワ(Halbert Nakagawa)らが2021年に共同設立した会社です。
彼らはLimit Break社の前に2008年にモバイルゲームスタジオMachineZoneを創業しています。そこで「ゲーム・オブ・ウォー」、「モバイルストライク」、「ファイナルファンタジーXV:新たなる王国」などAppStoreやGoogle Playの上位ランキング入りを果たしたゲームを数多く生み出しました。
MachineZoneは、モバイルゲームに基本無料プレイの大規模多人数参加オンラインゲーム(MMO)のジャンルをもたらし、多くのユーザーを魅了しました。この実績を元に2020年、MachineZoneをAppLovinに300億ドルで売却しています。
レイドン氏は、すでにゲーム業界で充分な実績と知名度を持ち、さらにF2Oというモデルを引っさげて新たなチャレンジを始めています。
Free to Ownとは
F2OのNFTは無料で提供されます。
ですので、プレイヤーは今までのように初期投資したコストを回収する(いわゆる原資回収)プレッシャーがないので、その分長くゲームを楽しんでくれる、というものを基本コンセプトにしています。
レイドン氏はインタビュー内で今のゲームモデルは「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」ではなく、「Play to Sell(遊んで売る)」になっていると揶揄しています。これらの「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」のブロックチェーンゲームが抱える課題から、レイドン氏は「Free to Own」のモデルを思いつきました。
この思想を体現すべく発行された第一弾のフリーミントNFTがDigiDaigakuGenesisです。DigiDaigakuGenesisは今後、ゲーム内でNFTジェネレーター(生成工場)として機能し、新たなゲームNFTを生み出す始まりのNFTになると発表されています。
NFTのリリースから数週間で、約3,900ETH相当のコレクターアイテムが取引され、60万ドル以上の収益が発生しています。Limit Breakはその取引手数料の10%をロイヤリティとして取得しています。
無料化への流れ
2017年から2021年にかけてトークン配布はICO参加による有料購入から無料のエアドロップへと変化していきました。最初はICOを通して現金でトークンを購入していたものが、その後DeFiのイールドファーミングなどを通して給付金的な形としてトークンを得られるようになったからです。
NFTも同じように有料から無料のエアドロップになることで次の進化に進む可能性があります。
フリーミントといえばLoot Projectを思い浮かべる人もいるでしょう。Loot Projectは2021年8月にシンプルなテキストのみのNFTをフリーミントで配布するという形でスタートしました。
このNFTは、RPGの冒険者が使いそうな8つの装備品のテキスト(例:short sword,Leather Shields)の文字だけが書かれていて、それから想像できるストーリーやゲームなどへの展開はコミュニティの自由にしていい、と発表しました。
このVine共同創業者のドム氏(Dom Hofmann)が仕掛けたLoot Projectはクリプトの非中央集権的な思想と共鳴して、ホルダーたちのインスピレーションを刺激して盛り上がりを見せました。
しかし、フリーミントで始まったこのプロジェクトは、最終的にゲーム開発費用をNFTのホルダーに負わせる流れになりました。その上、Loot ProjectのNFTには二次取引のロイヤリティがなく、継続的なエコシステムの土台が作れず、徐々に当初の勢いは失われていきました。
それでも、Loot ProjectのユニークなコンセプトはNFTプロジェクトやゲーム業界に印象的なアイデアを提供しています。
ブロックチェーンは、デジタル資産の中立な支払いや取引を支えるインフラです。ゲーム開発者がそのゲーム内で活用するNFTやトークンに対して資産性を設計している限り(そうでない場合はプレイヤーにとって赤信号となる)、ユーザーは自由な売買・取引を実現させるモチベーションが高まります。
そして、ブロックチェーンには決済の上限がありません。AppleやGoogleのストアに依存しないので購入上限(100ドル)はありません。つまり、ブロックチェーンゲームのアイテムは数百万ドルでの売買もできて、30%など高い手数料もなく、より自由でオープンな取引を可能とするのです。
これらがF2Oモデルのキーとなります。
F2Oゲーム開発者は、ゲーム資産の大部分をプレイヤーに渡すことで、F2Pより大きな経済的規模を目指すことができるでしょう。
F2Oの長所と短所
【長所】
1.開発者とプレイヤーが協力し合えるインセンティブ設計。
F2Oゲーム開発者は、プロジェクト開始直後に無料でNFTを配るため先行収入がありません。そのため、自分たちで十分な資金を用意する必要があります。
そして、プレイヤーが離れないようにしっかりゲーム設計を作りこんでプロジェクトをスタートする必要があります。
プロジェクトスタート後は、開発者は利益を得るためにゲームの設計・構築やコミュニティの成長に集中し続けます。つまりスタートした時点で、運営者とプレイヤーの利益が一致した状態となります。
このようにF2Oは開発者とプレイヤーがともにゲームを成長させるというインセンティブが生まれやすい設計となっています。
2.継続を可能とするF2Oのゲーム開発環境。
2-1. ユーザーはラグプル(資金持ち逃げ)のリスクがない。
プロジェクト開始直後にNFTなどを売って収益を得た運営者は満足してモチベーションが下がる、もしくは資金を持ち逃げする(ラグプル)リスクがあります。
F2Oでは無料でNFTを配布するため、そのリスクはありません。
2-2.プレイヤーは長期的にF2Oを楽しむ。
初期投資がなく、プレイヤーがゲーム資産の大部分を保有しているので、プロジェクトやゲームNFTの価値がどうなるかはプレイヤーの行動が重要となります。積極的な参加が求められるので自然と投機勢は減り、そのゲームに共感し純粋に楽しみたいと思うプレイヤ―が集まるでしょう。
そのため、プレイヤーは長くF2Oを楽しめます。
2-3.より多くのプレイヤーが参加できる。
Play-to-Earnでは、プレイヤーが投資した資金をすばやく回収し、ゲーム内資産を多く流通させゲーム内経済を回すことで、さらに多くの新規プレイヤーが参加できる設計となっています。
そして、プレーヤーが増えれば増えるほどゲームに参加するためのNFTの価格は上がります。
NFTの価格が一定以上高くなれば、新規ゲーム参加者は徐々に減ります。参入したプレイヤーがトークンの価格を支えていますが、そのバランスが崩れるとGameFiはデススパイラルに陥ります。
プロジェクト運営者は、参入障壁が高くなり、新規ユーザーが参入しにくくなるのを望んでいません。しかし、この問題は本来の「Play-to-Earn」モードではうまく解決されていません。
F2Oでは、プレイヤーは最初に資金を投入する必要がないため、この参入障壁がありません。これは継続的に新規ユーザーが増加することを意味しています。これらにより、F2OのプレイヤーはP2Eのプレイヤー数よりも増加・広がりやすくなっています。
2-4.ゲームコンテンツがより充実し、美しくなる。
P2Eでは、匿名の運営者で不透明なプロジェクトでもNFTを販売し、利益を得ることができます。そして、不透明なプロジェクトは不透明のまま終わる可能性があります。
悲しいことに近視眼的な(もしくは悪意ある)プロジェクト運営者たちは、プロジェクトの発展を捨てて、ラグプルを選ぶことがあります。
しかし、前述したようにF2Oのプロジェクトチームはゲームを作りこんでスタートします。ゲームを稼動させ、プレイヤーがゲームに興味を持ち、ゲームの資産を取引して初めてプロジェクトは収益を上げられるからです。
F2Oはプロジェクト側がまずコストとリスクを支払います。その後もプロジェクト側は一定の貢献をして、マーケットとともに成長していきます。優れたゲームを作らなければ、初期資金を回収することも収益を継続的に得ることもできません。
自然とプロジェクトチームは積極的にプレイヤーと交流し、フィードバックを得てより充実した豊かなゲームコンテンツを開発していくでしょう。
【短所】
1.高額なロイヤリティ設計
ERC-20トークンを例とすると、強気相場では投機筋の参入でトークン価格は上がります。トークンが利益を生み、上昇すると判断されて買いが進みます。
価格が上昇している間は、理想の価格となり売却する人もいれば、上昇が続くと考えて保有する人もいるでしょう。どちらにせよ価格が上昇している限り、売買高は非常に大きくなっていきます。
しかし、これはすべて、多くの投資家が「儲かる」と思っているからです。
ロイヤリティが高いと投資家のこの動きにブレーキがかかりやすくなります。例えば、DigiDaigakuの現在のフロア価格が9.5ETHの場合、実際に発注されるDigiDaigakuの売り注文は10.45ETH以上でなければロイヤリティを考慮すると売り手は損をします。
価格が高ければ高いほど、ロイヤリティも上がり、投機家の数は減っていくことになります。高いロイヤリティが価格の上昇を頭打ちさせてしまいます。
2. ボッティング
プレイヤーの参加のしやすさは諸刃の剣となります。
イーロン・マスクがTwitterを買収して最初に行ったのは、TwitterBlueの立ち上げでした。ユーザーは月8ドル(現在は11ドル)を支払って認証されることで、スパムやボットによるコメントを減らせるようになりました。
実際にLimit Breakの無人島サバイバルゲームCastawaysでは、ボットが横行し、公式が行ったゲーム大会のポイント取得の上位10名はすべてボットでした(ボットへの報酬は公式が除外しています)。
ボットが多すぎると、ゲームの進行やアイテム価格の上昇が加速し過ぎて、ゲームのエコシステムが破壊され、一般のユーザーがゲームを楽しめなくなります。
3.マーケティングに予算をかけにくい
F2Oは開発者が自己資金でプロジェクトをスタートする必要があります。ですので、資金的なハードルがあり、立ち上げるのは容易ではありません。
小さな開発チームだと、資金はゲーム開発に集中せざるを得ず、広告にかける予算は比較的少額となります。マーケティング費用が少なく、メディアへの露出が少ないとユーザーへ認知されるのは難しいでしょう。
4.多すぎるステークホルダー
BinanceのCEOであるCZ氏はF2Oについて、
"もし世の中のすべてが無料になるなら、なぜ我々はこんなに苦労しなければならないのか... "
とコメントしています。この一文は、F2Oの問題点をよく表現しています。
F2Oでは、GenesisNFTホルダーが継続的に報酬をもらい、力が集中しすぎるのでGenesisNFTの数を制限しないと、ゲームのライフサイクルが非常に短くなってしまいます。
またGenesisNFTホルダーは、手に入れたNFTをキャッシュアウトして利益を得ようとするでしょう。
つまり、要するにF2OもP2Eも同じなのです。いずれもエコシステムから資金を吸い上げる構造になっています。唯一の違いは、F2Oのライフサイクルが長いこと、それだけかもしれません。
結論
Limit Break社が提唱するF2Oのコンセプトは、ブロックチェーンゲームに新しいインスピレーションを与え、ポジティブな変化をもたらすでしょう。
ゲームを楽しみたいプレイヤーはGameFiという名ばかりのDeFi構造のEarnから本来のPlayへシフトしていくと思います。プレイヤーはブロックチェーンゲームの”ゲーム”という本来の要素を再発見するでしょう。
また、LimitBreakはERC-721で利用可能な新しいクリエイタートークンコントラクト(Creator Token Contracts)という独自のスマートコントラクトも開発しています。
NFTにステーキングを導入し、WrappedNFTの発行ができたり、クリエイターがより自由に価格やロイヤリティ設計ができる様々な仕組みを準備しています。
NFTレンタルやロイヤリティの保護も可能で、開発者・クリエイターがさらに自由な活動や表現ができるようなプロダクトを開発しています。
これからブロックチェーンゲームはますます細分化して、整理されていくでしょう。有名なゲームメーカーが参入して、ブロックチェーンゲーム技術は一気に大きく向上すると思います。
今年は確実にweb3ゲームがトレンドになっていくと思います。digidaigakuと協力してゲーム開発を進めるプロジェクトも増え、F2Oというキーワードがゲーム業界を大いに盛り上げることでしょう。今後もゲーム業界の進化には注目が必要です。
今回もご拝聴をありがとうございました!タカジCPさん今回も素晴らしい書き起こしをありがとうございます!